極限の中の神の愛　　ルカ ２３章 32〜38節

そのとき、イエスは言われた、「父よ、彼らをおゆるしください。彼らは何をしているのか、わからずにいるのです」。（34）

　主イエスの十字架の上の言葉の中でもとても有名な言葉を取りあげて共に神の恵みを味わいたいと思います。「父よ、彼らをおゆるしください、彼らは何をしているのか、わからずにいるのです」。

１　父への信頼の祈り

　この祈りで、主イエスはまず「父よ」と祈られました。神との命の関係がそこにはあったのです。神に信頼して正しく歩んでこられた主イエスが、こんなひどい目にあう。主イエスの弟子や、主イエスを愛していた人たちはみんな思ったに違いない。でも主イエスは神に対して、信頼の告白をなさったのでした。

２　罪人のための祈り

　主はそこで自分を十字架につけた人々、自分を馬鹿にする者たちのために、彼らをおゆるしください、と祈られました。
　「彼らを」とは誰のことでしょうか。主イエスを十字架につけた兵卒たち、主イエスを十字架につけろと叫んだ群衆、主イエスを見捨てた弟子たち、主イエスをねたんだ宗教家たち、主イエスをゆるす権威を持ちながら、正しいことを正しいと言えなかったピラト、善悪の基準がずれて、主イエスを殺すことが神に従うことだと思い込んでいた人たち・・・主イエスが彼らをおゆるしください、と祈られた時、その中には、あの人・この人だけではない、知ってください。私たちも入っていたのです。
　私たちは自分がそんなにものすごい罪人だとは思っていない。主イエスは祈られます。彼らは何をしているのか、分からないのです。まさに私たちは分かっていない。自分が何をしているのか、どんなに罪深いのか、自分の罪がどんなに主イエスを苦しめたのか・・・。けれども、そんな私たちのために主は祈ってくださったのです。

３　ゆるしをもたらす祈り

　ここで主イエスは罪深い者たちのために、彼らをおゆるしください、と父なる神にとりなしてくださいました。知らなかったとしても、許されることと赦されないことがあるでしょう。はっきり言って赦されないことです。けれども、十字架の上で苦しんでおられる主ご自身が、私たちのためにとりなしてくださった。彼らをおゆるし下さい。罪深いこの者たちのために、父よ、わたしがその罪を負って十字架で死にますから、どうぞ、この者たちをゆるしてください。私たちがゆるされるのは、まさに、主イエスの限りない愛に土台した十字架の身代わりの死と、そのとりなしの祈りのゆえなのです。

　そして、教会の歴史の中で最初の殉教者となったステパノが同じ祈りを祈っています。ステパノの中に主イエスの祈りが息づいていた。おそらく自分のために祈っていただいた祈りとしてこの祈りを聞いたのでしょう。そしてこの祈りに生かされている人は自分もまたこの祈りに生きる者とされていくのです。